燕三条 工場の祭典について

(C)神宮巨樹写真事務所

◆燕三条の産業とブランドイメージ

新潟県のほぼ中央に位置する三条市・燕市。一般的には三条は鍛冶産業、燕は金属製洋食器の産地として知られ、「燕三条」の呼称による地域ブランドとして広く認知されているといってよいだろう。

三条には鎌倉時代から鍛冶産業があったことが遺跡調査などによって示されており、江戸時代に和釘づくりが奨励されたことでさらに発展したといわれている。燕には江戸時代に鎚起銅器の製法が伝えられたことなどをきっかけに、銅器や洋食器、金属ハウスウェアなどの製造が盛んとなり、両市合わせて金属加工の一大生産地へと発展してきた。しかし産地としての知名度はあるもののその他に観光資源と呼べるものはなく、訪れる人といえばビジネス関係の視察が主で、一般の人がモノを買ったり旅をしたりする目的で訪れる街ではなかった。

 

◆前身イベントと、合致した思い

工場の祭典の開催に至るまでには、さまざまなきっかけや流れがあった。そのうちのひとつが越後三条鍛冶まつりだ。テントを張ったブース内に企業が出店してワークショップや販売を行う1日限りのイベントで、来場者は買い物や製作体験を楽しんでいた。しかし来場者のほとんどが市内もしくは県内からで、他の産地と比べて外部からの集客力が不足していたこともあり、主催の三条市は「イベントとしての発展性を考えなければならないと思っていた」ところだったという。同じ頃、三条市主催のもうひとつの事業として実施していたのが経営力向上人材育成塾。第1回目の参加者となったタダフサ代表の曽根忠幸さんは「育成塾を通して、僕らのモノづくりに対する想いを直接お客様に伝えるために、工場を開いてその姿を見てもらいたいと思うようになった」と語る。さらに、育成塾の第3回目のプロデューサーとして声がかかったメソッドの山田遊さんの考えも、こうした産地の意識と合致していた。山田さんは「モノではない、コト消費によるイベントのアイデアを数年前からもっていた」といい、工場見学イベントのプロデュースを提案。こうしてさまざまなタイミングが重なったことで、「燕三条 工場の祭典」が生まれた。

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◆イベント実施とその成果

2013年10月に開催された第1回工場の祭典は、54社が参加し、1万人の来場者を記録。多くの人が工場に足を運んだことで、そこで働いている人たちの意識も変わってきた。普段は立ち入ることのなかった近隣工場との交流が生まれたり、工場の掃除をした、ペンキを塗りなおした、といった声も聞かれた。「ひとつ一つは小さなことだけれど、そうした意識の変化の積み重ねはとても大事」(山田さん)と感じられる成果があった。

また、コンセプトづくりからアートディレクション、PRにいたるまで、山田さん率いるメソッドが監修していることも特筆すべき点だ。メソッドのノウハウやネットワークを活用し、イベントとしてのパッケージ化を実現した。

 

◆イベント継続のために

一方で、イベントの継続のためには、外部の力に頼りきらない地元の意識と力も必要だ。山田さんは数年後にプロデューサーの立場から離れることも検討しており、地元の組織が主体となって継続的に運営していける体制をつくることを目指している。三条市商工課の澁谷一真さんは「工場の祭典は民間と行政が一緒になってつくったこれまでにないものだった」と実感しており、イベントが企業にとっても地域にとっても来場者にとっても魅力的なものであり続ける道を模索している。的に発信できるものにしていく考えだ。

代表的な企業のご紹介

業種別にみると金属製品製造業の占める割合が両市ともに圧倒的に高い。燕市はステンレス加工産業、三条市はプレスや金型製作をはじめとする鉄の加工業が中心となっている。よく知られている鍛冶や洋食器のほかにもさまざまな業種が存在している。大多数が中小規模の工場だが、スノーピークや諏訪田製作所など、世界的にも名前の知られた大企業も複数存在している。

日野浦刃物工房【 刃物 】

1905年創業。日本の伝統技術を用い、自由鍛造による刃物製造を行う。国内外から変わった形状の刃物製作の依頼が寄せられ、より多くの信頼を得られる製品づくりを目指す。2012年には日野浦司氏が国から伝統工芸士の認定を受けている。

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玉川堂(ぎょくせんどう)【 銅器 】

1816年創業。やかんや茶器、花器などの幅広い銅器を製造している。玉川宣夫氏は2010年に人間国宝に認定されており、1枚の銅板から打ち出される銅器は使うほどに手に馴染み光沢を帯びる。工房からは多数の鎚起職人を輩出している。

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諏訪田製作所【 爪切り 】

1926年創業。爪切りや植木盆栽用の刃物などを製造、近年ではデザイン性の高い爪切りが国内外で評価されている。洗練された工場内はガラス越しに製造工程を見学できるようになっており、イベント期間外でも開かれた工場である。 

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スノーピーク【 キャンプ用品 】

本社にはオフィスをはじめ工場やストアが併設されており、自然志向のライフスタイルを提案するスノーピークのものづくりの全てを見学できる。本社社屋の横には5万坪のキャンプフィールドが広がっており、レンタル品も充実している。

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