おおたオープンファクトリーについて

◆23区最大の工場集積地・大田の特徴

東京23区で最大数となる約4000件の工場が立地する大田区。その多くは最終製品ではなく、試作品や特注品、高精度が求められる部品づくりなど、高度な技術が必要とされる場面で力を発揮している。多摩川沿いの大規模工場敷地には戦前から最先端の工場がつくられ、日本の工業を支えてきた。戦前期の白洋舎や戦後のキヤノンなどがその代表として知られている。また、1階が工場で2階が住居スペースとなった工場町家が多く残っているのをはじめ、工場と住宅の混在を可能にする準工業地域が広く指定されている。地域内に住む人が近所で働ける環境にある「住・工の共生」もまちの特徴だ。そして、互いに仕事の受注・発注の取引関係があり、工場同士で製品を回すネットワークの濃密さも大田のモノづくりの良さ。「蒲田のビルの屋上から図面を紙飛行機で飛ばせば、製品になって帰ってくる」といった伝説も残っており、「仲間回し」と呼ばれている。

 

◆産官学連携事業として動き出した大田のモノづくり観光

おおたオープンファクトリーの運営の中心を担っているのは、2009年に設立された大田クリエイティブタウン研究会(旧・モノづくり観光研究会)だ。会を構成しているのは大田観光協会と首都大学東京・横浜国立大学・東京大学の観光科学、都市計画、都市デザイン等の研究室。大田の町工場の魅力に関する大学の調査研究をベースに、技術や職人、工場建築などの多様な資源を生かしたまちの将来像を構想し、その実現に向けたアクションを起こすことを目的としている。オープンファクトリーはその構想のいちアクションに位置づけられており、2011年頃から具体的な方法の検討が始まった。そしてイベントに関心を示した地元の工業組合である工和会協同組合と組んで、産官学連携事業としておおたオープンファクトリーが実施された。

◆オープンファクトリーの実施

第1回おおたオープンファクトリーは工和会のお膝元といえる下丸子・武蔵新田の両駅周辺の工場集積地で開催。参加工場集めは工和会からの声かけのほか、研究会に所属する学生の活躍も大きかった。各工場には担当学生がつき、イベント当日の企画を立てたり、紹介文を作成してパンフレットに掲載したりと、密なやりとりを重ねた。地域住民の関心度も高く、来場者は1000人以上を記録。第4回では4工場を巡ってひとつの製品を完成させる、大田らしい企画「仲間回しラリー」も実現。「モノづくりたまご学生コンペ」による新商品開発も行い、より多角的な魅力の詰まったイベントになった。また、テクノコア、テクノウィングといったこれまでと異なるエリアの工場アパート(※)もオープンファクトリーを実施し、開催エリアも広がっている。

 

◆地元の人が活躍するイベントへ

現在おおたオープンファクトリーの実行委員会内部では、地域の人の関わりを強くし、継続的なイベントに育てて行く道を模索しているところだという。その第一歩として、第4回では学生担当に加えて工和会からも工場担当者を割り当ててイベントを企画した。さらに観光協会主導で「モノづくり観光サポーター」と呼ばれる地元のボランティアガイドの育成を開始した。いずれはイベントの企画や運営の担い手になってほしいという期待をしている。今後は大田区全体のイベントとして、開催エリアを広げるとともに大田のモノづくりの魅力を総合的に発信できるものにしていく考えだ。

代表的な企業の紹介

切削、研磨、成型といった、工業製品をつくる時に基本となる加工技術が大田の特徴。時代の移り変わりとともに日々新しい技術開発に取り組んできた。中にはオンリーワンといわれる、そこでしかできない技術や製品をもった工場も出現している。工場から工場へと材料をまわして加工を施すことでひとつの製品をつくりあげる「仲間回し」に代表される、工場同士の水平的かつ濃密なネットワークも特徴的だ。

プレシジョンファクトリー【 金属切削 】

石油関係や食品関係の材料を正確に測定するために使われる流量計の部品の切削加工が主な業務。完成部品納入のために他社に外注する仲介業務を果たすことも。ステンレスやハステロイなど、切削が難しい材料の加工でも実績を積んでいる。

北嶋絞製作所【 ヘラ絞り・プレス絞り・特殊形状絞り 】

熟練の職人たちによるヘラ絞り技術は、わずか0.1mmの誤差であっても気づくほどの精度を誇る。他社がやりたがらないこと、できないことに積極的に挑戦してきたノウハウが蓄積されており、航空機や人工衛星の部品なども手掛けている。

赤塚刻印製作所【 手彫刻印 】

大田唯一の手彫刻印工場。赤塚正和氏は手彫り刻印のマイスターで、機械ではできない精密なデザインの刻印も手作業で生み出す。手彫刻印の品質保証の限界といわれる0.5mmを上回る、0.4mmの世界をタガネ1本で再現できる凄腕だ。

安久工機【 総合機械製作 】

「モノづくりのコンビニ」の異名の通り、設計から組立までの幅広いニーズに柔軟に対応。人工心臓や視覚障害者用筆記具、折りたたみ式カラーコーンなどの開発にも携わり、経済産業省の「世界トップレベルのベンチャー企業7社」にも選出された。